加藤
アメリカで最近、ホームスクールとかホームスクーリング(home schooling)が急増しているその原因と思われることを話します。伝統的には、コチコチのキリスト教徒が子供を公立の学校に行かせず、家で教育したのが、このホームスクールの始まりです。ここ5、6年は、宗教上、ホームスクールをする人も増えていますが、ここ15年前くらいから、公立の学校の教育の質の低さと悪さ(すなわち学問上、正しいとは思われない教え方)のためにホームスクーリングを始めた家族が出始めました。息子を連れて、ピアノ・コンテストに連れて行った時に気がついたのですが、コンテストに出ている中高生のほとんどがホームスクールの学生でした。そうでもしないとピアノの練習の時間が無いということなのかもしれません。

西村
ホームスクールはまだないのですが、フリースクールは日本でも出てきています。

加藤
ホームスクールはウルトラ私立学校みたいなものですかね。12、3年前ころから共通テストで公立の学校に行っている学生よりもホームスクールの学生の方が良いという結果が出始めました。これは、当たり前のことではありません。というのは、宗教上のホームスクーリングの学生は、一般的に学力は低いのですから、この宗教上のグループを含めても、より高いのです。それでは、急増の原因と思われることを列挙します。 1. 創造性とか自由性という魅力のある言葉を使ってはいますが、現実は、生徒を、退屈させないため(ここは集中力のなさから来ていることが多々ですが)、学科の質を低くし、低学力の生徒に足並みを合わせすぎて、上半分とは言わないまでも、上の1/4の学生は、時間を持て余してしまうほどです。又、それをふせぐため、授業をおもしろおかしくの方に行き過ぎてしまうこと。 2. そのために、授業中に無駄な時間が多くなってしまうこと。ここれは又、宿題の内容も、ただ時間ばかりかかる宿題が多くて内容の乏しいものが多いということ。 3. これは、又、先生の質の低さ、そして悪さにもあります。特に、ここの小学校の先生方は、文科系卒の女の先生がほとんどで、数学・理科の苦手な先生が多すぎるということです。怖いのは、数学離れは、アメリカでも小学校から始まることが多く、その人の人生に長く尾をひくことがあります。

西村
日本の学校でも、まったく同じことが起こっています。

加藤
アメリカの80歳以上の人の話を聞くと、先生は今よりずっと尊敬されていたと言います。その世代の人は、先生とは限らず、人と人の間に尊敬と信頼というものがあったそうです。そのころのアメリカでも告訴(sue)する人は、非常に珍しく、紙にサインしなくても、多くの場合は、男同士の握手で間に合わすことができたそうです。アメリカは確かに変わりました。

西村
少し昔の日本と同じですね。

加藤
ニュースで知っていると思いますが、アメリカでは、小学校の先生から高校の先生まで、生徒、学生の若さから来る弱みを使った悪質な教師の行動は、時々身の回りでおきています。

西村
日本でも、最近は悪質な教師が問題となっています。

加藤
先に挙げた3つが主な原因でしょう。おのおのの現象の結果は、「裕福病」です。国が豊かになり、社会がたるんで、ソフトになっていくという社会現象です。国が貧しかったら、1,2,3のようなことは、できないでしょう。そんなゆとりが国にないと思われます。国が貧しかった時に努力して、1,2,3などをやらなかったから国が豊かになったといってもいいのかもしれませんが。

西村
そういう意味では、日本も裕福病ですね。
この20年間、日本の小学校では、音楽では歌を教えなくなり、国語では暗唱をしなくなりました。格調の高い文章を空で言えるほど身につけるということがなくなっているのです。

加藤
フランクフルトの近くに住んでいるドイツ人の友が、ゲーテの家に連れて行ってくれました。その家の2階だったか3階であったか、ゲーテが「ファウスト」を書いた机のある部屋に入って行ったとき、その友が突然、「ファウスト」の初めのところを大らかに声を出して引用し始めたのです。それも大変嬉しそうに、そして誇らしげに。私も頼もしくなってしまって、それを見た彼がますますいい気分になって、ずっと「ファウスト」を続けました。

我が日本の朋友は、高校教師一年目の卒業式の日、泣いてしまったと教えてくれました。私の友は、どちらかというと、こういうタイプが多いかもしれません。

小学生のころ、横とんぼ返りが得意でして、嬉しいことがあると、それをやりました。今、横トンボ返りができるかどうか分かりませんが、今でも2年ぐらいかかったプロジェクトが終った時、したいと思います。今は、その代わりに、

もよみ持ち ふくしもよ みぶくしもち この岡に
ます児 家聞かな 名らそね そらみつ 大和の国は
おしなべて われこそ居れ しきなべて
われこそ座せ われこそは告らめ 家をも名をも

が、頭の中をトンボ返り2回します。

私も能のないタカで、隠すツメもありませんが、ほんの少しの知識でもいいことを知っているといろいろ人生の励ましにもなります。

西村
万葉集の冒頭の雄略天皇の歌ですね。

加藤
地理の知識は、「チリチリバラバラ」であり、漢文も「チンプンカンブン」、古典には「コテンコテン」にやられてしまうし、そんな若いときもありました(なにせ、字は読めても文章とつながらないというやっかいなゲルストマン症候群ですから)。それでも、箱庭サイズの知識でもいいから、まとまりのある知識は美しさもあり、又、活き活きとした楽しみがあるかもしれません。横トンボ返り2回という。

西村
本当ですか!ゲルトマン症候群は、指の認知ができない、字を書けない、計算ができない、左右の認知ができないの4つの兆候を示す状態ですよ。頭の中でイメージを回転できないことで生じるそうです。脳出血などで、この障害が起きる人がいて、リハビリで治るそうですが、きっと、横トンボ返りをして治ったのかもしれませんね(笑)。

ところで、今の日本の学校では、「良い子の反乱」というべきなのか、普通の子がみな灰色になっているようなのです。

加藤
小学6年生のころ、4センチ四方のビロードの緑色の布に黒いマジックペンで横線を2,3本、黒点を3つ、4つを使って、いろいろ組みあわせ、ランクを決めてクラスの男子の生徒の気に入った連中に配って組織をつくりました。もう48年前のことです。今流の言葉で言えば、ギャング・グループを作ったわけです。その目的は、「いじめ」をするようなヤツらを取り締まることでした。

その秘密組織は、ある男子生徒が先生に告げ口をしてバレてしまって、教室の同級生の前で、悔しさとそのきたなさで泣いてしまいました。その告げ口をした男の子は今もはっきり覚えている。

西村
日本サルの社会でも、ボスの支配による秩序があります。子供の世界でも、昔は、強い子供などの力による秩序がありました。今は、そういうものがなくなり、いじめが普遍化しています。これは、先生による支配に対する反抗なのかもしれません。

加藤
息子が小学生・中学生のころ、もしいじめにあったら、そのやられた分の2,3倍にして復讐してもいいし、又それを奨めると言っておきましたら、誰からも好かれるというか、何もなく小・中は終りました。もっとも中学2年から高校を終るまで、ホームスクーリングをしたので、そういった社会的なナンセンスはゼロとなりました。「四十七士」的な考えは、私にでも健全にあるのかなあと思いました。

西村
アメリカ人の子供には、特に大きい子や乱暴な子もいるので、日系人の親には、子供に柔道や空手を習わせているという人がいますね。

加藤
この家から200メートルくらい南の方に住んでいるアイルランド系のアメリカ人の友の二男は、小学生のとき、やせて小柄な子でした。この子がいじめにあったということは、彼自身が話してくれました。高校生になったら、身長は6フィート3インチ(190センチ)になったので、そのいじめた子を高校の時につかまえて、指を1本折らせてもらったとも話してくれました。いじめをする子に言いたい。「いつ復讐されるかわからないから、いじめはしない方が身のためです」と。私の韓国人の友達が言っていました。「日本人は不思議だ。切腹して、それで国が豊かになってゆく」と。

西村
切腹は、もうないですが、自殺は依然として多いですね。他人を責めるより、自分を責めるのが、日本人の中には、多いと思います。個人が国のため犠牲になっているのでしょうね。